「もう少しだけ住みたい」と
言ったお祖母さんの話。
こんにちは、才光不動産です。
家族の住み替えの相談で、息子さんご夫婦と一緒に来られたお祖母さんがいました。80代で、長年ひとりで戸建てに住んでいました。家族の話では「足腰が弱くなってきたので、息子家族と一緒に暮らすマンションに移ることになった」とのことでした。話を進める間、お祖母さんはほとんど発言しませんでした。

手続きの話がひと通り終わったあと、お祖母さんが小さな声で「もう少しだけ、あの家に住んでいたいんですけどね」と言いました。その場にいた誰もが、少し驚いた様子でした。
息子さんが「お母さん、それは前に話したよね」と少し困った様子で言いました。お祖母さんは「うん、わかってる」と頷きながらも、その言葉の重さは消えませんでした。私はその場で何も言いませんでした。家族の話に部外者が入る場面ではないと思ったからです。でもあの一言が、ずっと頭に残っています。
後日、息子さんから個別に連絡があり「実は母が、家の片付けの間だけ、もう少し時間が欲しいと言っていて」という相談でした。引っ越しのスケジュールを調整し、お祖母さんが家の中を一つ一つ見て回る時間を、少し長めに取ることにしました。
その期間、何度かお宅に伺いましたが、お祖母さんはいつも縁側に座って庭を眺めていました。あるとき「ここで主人と毎晩お茶を飲んでいたんです」と話してくれました。ご主人は10年以上前に亡くなられていました。家を離れることは、その記憶からも離れることのように感じられていたのだと思います。
最終的にお祖母さんは、家族の説得もあり、予定通りマンションに移ることになりました。でも引っ越しの日、最後にもう一度縁側に座って「ありがとうね」と家に向かって言っていたのが印象的でした。誰に向けてというより、その場所そのものに伝えていたように見えました。

家族にとって合理的な決断が、誰かにとっては別れを意味することがあります。その別れの時間を、できるだけ丁寧に作ることが、この仕事で私にできる小さな配慮だと思っています。
本日は以上です。
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